論理的思考を鍛える国語科授業方略

「中国新聞」(2012年6月24日(日))・「山陰中央新聞」(2012年8月12日(日))で紹介されました。

はじめに(抜粋)

 駆け出し記者のころ、朝刊一面に二年近くにわたって連載されたルポ『中国山地』を読み、初任地の松江支局に立ち寄る先輩の担当記者がまぶしかった。自らが中国山地の南端で生まれ育ったこともあって、連載記事に書かれていること、先輩記者が聞かせてくれる事象は他人事ではなかった。高度経済成長政策が喧伝され、太平洋・瀬戸内沿岸の重工業化が進む裏側で、中国山地は1963(昭和38)年の「三八豪雪」を引き金に挙家離村が加速していた。この現象を表現する東京・霞ヶ関発の官庁語「過疎」が、やがて普通名詞として定着する。

 いつかは中国山地を訪ねる取材をしたい。そんな願いが実現したのは、中国山地の真っただ中、広島県千代田町(現北広島町)の支局に在籍していた1983年だった。3人で取材班を編成し、1984年1月から一年半、『新中国山地』というタイトルでルポを書いた。先輩の感性あふれるルポには遠く及ばなかったが、いずれ後輩記者がバトンを受け継いでくれるだろうと思いつつ役割りを担った。それからさらに18年後の2002年、『中国山地 明日へのシナリオ』というタイトルで三度目の中国山地ルポが連載された。期待した通り三区の走者がバトンを引き継いでくれたのである。

  (略)

 筆者が『新中国山地』でお世話になった人たちを中心に、およそ30年の足取りをたどり、ルポにまとめた。その間、バブル経済とその崩壊という激動期があり、以後の財政ひっ迫が地域を一層苦しめていた。そんな時代を経て今も活動を続けている人たちに強く引き付けられた。これからの中国山地を支えて行くのはどういう動きなのかに注目しながら取材した。21世紀に入って10年ほどの中国山地をどれほど書けたか自信はないが、読者のみなさんにとって何かのヒントになればと願う。

 この報告は、中国山地に生きる人たちから託された伝言である。また、米と野菜をつくる農家でありながら、記者から大学教員に転じ二足のわらじを履き続けた高齢者のつぶやきである。

目次

はじめに
第一章 過疎対策の実験台――益田市匹見町
 第一節 過疎町長との再会
 第二節 「広見」顛末記(1)
 第三節 「広見」顛末記(2)
 第四節 「広見」顛末記(3)
 第五節 もう一つの集落移転「日の里」
 第六節 炭窯「夢ファクトリー」
 第七節 ツバメ型ライフ
第八節 「みどりの工場」
 第九節 「木工の里」の試練
 第一〇節 「木工の里」を守る
 第一一節 ワサビ再興の夢
 第一二節 ワサビIターン

第二章 新しい血――島根県邑智郡
 第一節 「香木の森」の二〇年
 第二節 「第二の故郷」
 第三節 「第二の故郷」の記憶
 第四節 「新石見人」の田舎発見
 第五節 「地域おこし協力隊」の若者たち
 第六節 「郡都」川本の苦悩と光明

第三章 「御三家」からの自立――奥出雲地域
 第一節 「出雲御三家」の陰り
 第二節 「御三家」のいま
 第三節 「鉄の歴史村」吉田の迷走
 第四節 鑢「世界遺産化」への道のり
 第五節 「道の駅」の憂鬱
 第六節 「木次乳業」の軌跡

第四章 備北の模索――三次・庄原北部地域
 第一節 牛と別れる日
 第二節 ワニ料理とネット情報
 第三節 建設会社とイチゴ工場
 第四節 「あとつぎ会」の心意気
 第五節 高速道とリンゴ農家
 第六節 第三セクター「(株)君田21」
 第七節 川根「自治」の実践

第五章 大都市のとなりで――芸北地域
 第一節 恐羅漢山の麓
 第二節 山仕事と木工
 第三節 和牛飼育の異端「見浦牧場
 第四節 圃場整備の誤算
 第五節 私学の灯火を守る
 第六節 どんぐり村(1)――そばの里
 第七節 どんぐり村(2)――芝生ビジネス

終 章 総括編
 第一節 人口政策としての過疎対策
 第二節 里山復権
 第三節 高速道の悲哀
 第四節 学校が消える
 第五節 土建業の盛衰
 第六節 価値観転換のとき

主な参考文献
おわりに



著者紹介

島津邦弘(しまづ くにひろ)

1941(昭和16)年 広島市安佐北区生まれ
1964(昭和39)年 立命館大学文学部卒・中国新聞入社
1965(昭和40)年 松江支局
1970(昭和45)年 編集局報道部
1980(昭和55)年 千代田支局
1990(平成2)年 解説委員
1994(平成6)年 編集局次長
1997(平成9)年 中国新聞退社 比治山大学教授
2010(平成22)年 比治山大学退職

主要共著書
『新中国山地』1986年・未来社
『西中国山地 動物たちは今』1989年・ぎょうせい
『移民』1992年・中国新聞社
『ヒロシマ50年』1995年・中国新聞社
『神々の鼓動 出雲の風と土と』1997年・中国新聞社

中国新聞掲載『中国山地』―『新中国山地』―『中国山地 明日へのシナリオ』と続いた地域ルポのその後を、元中国新聞記者が追う。

山里からの伝言

山里からの伝言――中国山地2010~2012

島津邦弘著
四六判・270頁
2,750円(税込)